フィジビリティスタディとは?PoCとの違いや要素・進め方を解説
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最終更新日:2024年05月07日 / 投稿日:2024年05月07日
新商品・新サービスの開発や、新規プロジェクトの立ち上げをする前に、実際に計画を実現できるのか、利益が出るのかを確かめる必要があります。その際に行われるのが、多角的な視点から事業の実現可能性をチェックするフィジビリティスタディです。
この記事では、新たなプロジェクトを企画しているプロジェクトマネージャーの方に向けて、フィジビリティスタディの意味や要素、進め方を解説します。プロジェクトを円滑に進めたい方は、ぜひこの記事を参考にしてください。
1. フィジビリティスタディとは
フィジビリティスタディ(Feasibility Study)とは、新規ビジネスや新規プロジェクトを開始する前に、実現できるかどうか分析することを目的として行われる調査です。「実現可能性調査」や「実行可能性調査」とも表記されます。
ビジネスにおいて、適切なフィジビリティスタディは新規事業プロジェクトを失敗させないためにも重要性が高い事項です。事業やプロジェクトの大きさによりフィジビリティスタディの期間は変わってきますが、一般的に数週間から数か月かかります。
1-1. フィジビリティスタディとPoCの違い
事業やプロジェクトの実現性を調査するものに「PoC」があります。PoCとは「Proof of Concept(概念実証)」とも訳される、試作開発に入る前段階の検証プロセスです。PoCはフィジビリティスタディと似た使われ方をするケースが多い言葉ですが、実施するタイミングや調査方法に違いがあります。
事業やプロジェクトを始める場合、まずは始める前にフィジビリティスタディを行い、実現可能かどうかを調査します。その後、試作段階に入る直前に、フィジビリティスタディによって得られた情報をベースとして、PoCによって小規模な試作や実験を行い、確度を高めるという手順が一般的です。
進行中の事業やプロジェクトが失敗とならないためにも、課題を早期に発見し対策を講じられるPoCが必要です。フィジビリティスタディとPoCには違いがありますが、両方を実施すれば事業やプロジェクトの成功率が高まります。
2. フィジビリティスタディで検証する4つの要素
フィジビリティスタディは外的要素の「市場」、内的要素の「技術」「財務」「運用」の4つの面から分析するとよいとされます。以下では4つの要素をそれぞれ紹介します。
2-1. 【市場】市場でどのようにパフォーマンスを発揮するか
フィジビリティスタディの外的要素である「市場」では、プロジェクトの商品やサービスが業界や市場において発揮するパフォーマンスがどのようなものかを調査・分析します。アイデアがよくても、市場のニーズがなければプロジェクトは失敗します。
<市場における調査内容の例>
- 政治
- 経済
- 社会情勢
- 市場ニーズ
- 競合調査、競合状況
- 売り上げ予測 など
上記のような要素を調査し、ビジネスとしてプロジェクトが成り立つかを分析します。必要な項目を漏れなく効率よく分析するには「5フォース」や「PEST分析」などのフレームワークを利用するとよいでしょう。
2-2. 【技術】技術的なリソースは十分か
フィジビリティスタディの内的要素である「技術」は、プロジェクトが成功するために必要な技術的リソースが備わっているかの調査・分析を指します。技術的なリソースがないとプロジェクトの実現が不可能となります。
<技術リソースの例>
- アイデアを形にできる技術的知識や技術はあるか
- 生産設備は十分か
- 継続的な生産能力はあるかなど
新商品を作るためには設備や人材が必要です。さらに、市場が必要とする量を継続的に生産できなければ、長期的に見てプロジェクトが頓挫する可能性は高まります。
2-3. 【財務】採算性はあるか・財政的に実行できるか
「財務」はフィジビリティスタディの内的要素の1つで、プロジェクトの採算性や財政的な実現可能性を調査・分析します。採算が取れないビジネスは成り立たないため、財務面の調査は重要です。
<財務の調査内容>
- プロジェクトの開発コストはいくらか
- 事業化までに必要な費用はいくらか
- 宣伝や営業にかかる費用はいくらか
- 必要経費を賄う方法はあるか
- ROIは期待するレベルに達しているか など
企画から事業が軌道に乗るまでの投資額や継続的なランニングコストと、プロジェクトが成功した時に得られる利益を予測して投資収益率(ROI)を計算します。ROIが期待するレベルまで到達しない場合は、プロジェクトの軌道修正が必要です。
2-4. 【運用】プロジェクトを完遂できるか
フィジビリティスタディの「運用」要素では、プロジェクトの完遂が可能であるかを調査・分析します。プロジェクトの完遂には長期間を要するため、安定した運用は必要不可欠です。
<運用面における調査内容>
- 連携の取れる組織構造か
- 人的リソースの不足はないか
- 人的リソースを将来的に確保できるか
- 運用における知識やスキルがあるか
- プロジェクトに関わる法的要件はないか など
どのようなプロジェクトでも人的リソースがないと運用は危ぶまれます。人的リソースの確保方法や代替案を調査し、検討しておくとよいでしょう。
3. フィジビリティスタディの進め方
フィジビリティスタディは新規プロジェクトの企画をプレゼンテーションする際に説得力を増したり、プロジェクト開始後のリスクを回避したりするために必須です。以下のような手順でフィジビリティスタディを進めれば、確度の高い分析が可能でしょう。
3-1. 課題を明確化する
フィジビリティスタディでまずやるべきことは、課題の明確化です。フィジビリティスタディの4つの要素である「市場」「技術」「財務」「運用」面において「現状における課題」と「今後予測される課題」を洗い出しましょう。
具体的に明確化すべき課題の例は、以下の通りです。
- 商品やサービスの展開可能な規模
- 業績を評価する指標
- 作業において発生しうるリスクファクター
- プロジェクトが始まってから完了するまでの必要コスト など
課題はなるべく小さな単位で明確にしておくと、ステップ2以降の解決策を設定しやすくなります。また、課題を洗い出す際には第三者が見て理解しやすいよう、ある程度具体的な形に落とし込むのが大切です。
課題の例 | 落とし込み方の例 |
---|---|
原材料の輸入が遅れがちであり、プロジェクト全体のスケジュールが後ろ倒しになる可能性がある | プロジェクト全体のスケジュールが遅延しないよう、原材料の輸入先を再選定し、必要に応じて輸入先を分散する仕組みを取る必要がある |
3-2. 必要となる事項をリストアップする
プロジェクトにおける課題を明確にした後は、課題を解決するために必要な要求事項や制約事項をリストアップします。リストアップすれば課題解決へのプロセスや期間、コストも特定できます。
<具体的な事項>
- 人員の確保
- システム開発や導入、拡充
- 設備や資材の確保
- 予算の拡充
- 新しい専門部門の設置
課題解決のプロセスは細かいところまで綿密に計画するのが成功への秘訣です。そのために要求事項や制約事項は、多角的かつ具体的にリストアップしましょう。
3-3. 代替案を用意する
検証が進むうちに、当初の解決策ではうまく機能しないことが判明するケースも多くあります。したがって、1つの解決策を立てるだけで終わらず、複数の代替案を用意しておき、機能しなかった場合でも実行できる体制を整えておきましょう。
3-4. 結果を評価する
すべての案を出し終えた後に、フィジビリティスタディを実行し、検証結果を以下のような項目から評価します。
<評価項目>
- プロジェクトの目的と課題
- 市場動向
- 技術的リソース、人的リソース
- 予算
- 競合他社との競争優位性の持続度合い
- 適法性
- リスク
- 社会や環境への影響
- 実現可能性と期待する効果
- 期間
上記のような内容で多角的に評価して報告書にまとめ、プロジェクトの関係者や資金の融資先、投資家などに報告しましょう。
まとめ
フィジビリティスタディは、新しいプロジェクトについて分析し、実現できるかどうかを評価する調査です。市場の需要、技術面における実行可能性、採算性、運用性という4つの要素を検証し、実際にプロジェクトを成功させられるのかチェックします。
フィジビリティスタディはプロジェクトが始まった後に思わぬリスクが判明したり、プロジェクトがリソース不足に陥ったりするのを防ぎます。新事業を行うにあたっては、まずはフィジビリティスタディによって確度を高めるのが重要です。