デグレとはどのような状態?原因や対策法を解説
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最終更新日:2023年06月05日 / 投稿日:2022年12月13日
システム開発で起こりやすいトラブルの1つが、プログラムの修正により予期しない影響が発生し、性能が悪化する「デグレ」です。デグレの発生により、開発スケジュールや顧客との関係に大きな影響が出るケースもあるため、システム開発の際はデグレができるだけ発生しないよう努める必要があります。
当記事ではデグレの原因や対策について詳しく解説します。現状の開発環境には何が足りないのか把握し、デグレの防止対策を考えましょう。
目次
1. デグレとは?
デグレとは、「低下する」という意味を持つ英語「デグレード(degrade)」を略した、日本のIT業界特有の業界用語です。プログラムの変更または修正により、他のプログラムに意図しない影響が生まれ、変更・修正前よりもソフトウェアの品質が劣化してしまうことをデグレと呼びます。
デグレの具体例としては、正常に動作していた機能が停止したり、バグや不具合を修正した後にかえってソフトウェアの性能が悪化したりすることなどが挙げられます。
デグレはIT業界の開発業務ではよく直面する現象です。しかし、デグレが発生すると、以下のようなリスクが発生します。
顧客の信用を失う |
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デグレが発生すると、顧客は「正常に使えると思っていたシステムやサービスが使えない状態」になり、顧客に重大な損失が出た場合、損害賠償請求に発展することもあります。さらに、デグレを修正したとしても、顧客は「また同じようなトラブルが起こるのではないか?」という気持ちになり、安心してサービスを利用できません。顧客やユーザーの信用を損ねてしまうことが、デグレによるリスクの1つです。 |
工数やコストが増える |
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デグレが発生した場合、デグレの修正のために迅速な対応や詳細なテスト・影響調査などが必要になります。その分、想定外の工数やコストが増え、スケジュールに大きな影響を与えてしまう恐れがあります。 |
デグレの再発につながる |
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デグレが発生したということは、そもそも開発過程でデグレが起こりえる問題点が潜んでいたということです。デグレの発生は問題点が顕在化した結果であり、再発防止には根本的な解決方法が必要になります。さらに、デグレの解消にはシステムやプログラムの修正を行います。修正時はデグレが発生しやすいタイミングであり、デグレの再発を防ぐためにも、慎重に修正を行わなくてはなりません。 |
2. デグレのよくある原因
デグレにはさまざまなリスクが伴うため、発生を未然に防ぐことが重要です。デグレを防止するには、デグレが発生する原因を知っておく必要があります。
デグレはさまざまな要因により発生しますが、ここでは代表的な3つの原因を紹介します。ソフトウェア開発に携わる方は覚えておきましょう。
2-1. プログラムの変更・修正
プログラムの変更・修正は、デグレの原因になりやすい作業です。
変更・修正対象のプログラムと他のプログラムの関係を把握できていない場合、デグレが発生するリスクが高まります。プログラムの変更・修正によって、何にどのような影響を及ぼす可能性があるかは、事前に入念な調査をしておきましょう。
特に大規模なソフトウェアは、さまざまなプログラムがお互いに影響を及ぼしあっている状態です。プログラムに関する事前調査が不足していた場合、変更・修正によって意図しない不具合を引き起こすリスクが高くなります。
2-2. 開発管理体制の不備
ソフトウェアの変更・修正を行う場合、原則として厳密な管理ルールの設定が必要です。しかし、管理ルールに不備があった場合や、そもそも管理ルールが存在しない開発現場の場合、適切な対応ができず、デグレが発生する原因となります。
また、ソースコードのバージョン管理が適切に行われず、最新ファイルではない古いファイルを更新してしまうこともデグレの原因の1つです。特に、修正済みであるはずのデグレが再発する場合は、不具合修正前のファイルの使用が原因となることが多い傾向があります。
2-3. 開発者間のコミュニケーション不足
プログラムの変更・修正や仕様変更を行った際に重要なのは、開発者間で情報を共有することです。しかし、開発者間での情報共有が不足していたり、開発者間で認識の相違があったりすると、デグレが発生するリスクに直結します。
プログラムの変更・修正などで発生するデグレの中には、開発者間のコミュニケーションが適切に行われ、全員に情報が正しく行き渡っていれば防げるものも多くあります。大規模なプロジェクトの場合は情報共有すべき開発メンバーの数も増えるため、コミュニケーションには特に注意が必要です。
3. デグレへの対策は?
デグレにはさまざまなリスクが伴うため、発生を防ぐに越したことはありませんが、現実的にデグレを完全に防ぐのは難しいと言えます。一方、発生するデグレの数は、適切な対策を取れば減らすことが可能です。いざデグレが発生したときのためにも、デグレへの対策方法を知っておきましょう。
ここからは、ソフトウェア開発に携わる方が知っておくべき、デグレ防止に向けた対応策を4つ紹介します。
3-1. 適切な管理を行う
プログラムの変更・修正によるデグレのリスクを下げるためにも、適切な管理を行うルールを導入しましょう。管理ルールはプロジェクトの開始当初からしっかりと定め、開発チームの全員に周知・徹底することが大切です。ルールを決め、運用を徹底することで、ミスが起こりづらい状況を作れます。
また、管理に関する事柄は可能な範囲でシステム化し、ルールが自然と徹底される環境を作り上げましょう。
システム化の例として、バージョン管理システムの導入が挙げられます。システム開発では、対象となるファイルの構成が大規模になるほどバージョン管理が複雑になります。バージョン管理システムを導入すると、バージョン管理を簡単に、かつ効率的に行うことが可能です。
3-2. 影響範囲の調査を行う
プログラムの変更・修正前の準備作業として、影響範囲の調査が不可欠となります。デグレの発生は、影響範囲の事前調査不足が原因となることが多いためです。
影響範囲の調査を適切に行うには、影響範囲の調査という作業そのものに対してもルールの作成・徹底やミスを防止できる仕組みを作る必要があります。調査の人為的ミスを減らすためにも、可能であれば静的解析ツールなどを導入するといいでしょう。
3-3. リグレッションテストを行う
プログラムの変更・修正を行った後にリグレッションテストを行い、修正に対する無影響確認を行うと、デグレのリスクを下げられます。
リグレッションテストとは、デグレが発生していないと確認するために、既存機能などのテスト済みの範囲に対して行うテストです。日本語で「回帰テスト」や「退行テスト」と呼ばれることもあります。
リグレッションテストでは、プログラムの変更・修正前に動作していた処理・操作を改めて再現し、問題なく同じ動作が行われるかを確認します。しかし、すべての範囲に対してテストを行うことは現実的ではないため、事前に変更・修正による影響範囲を調査し、的確な範囲に対してテストを行いましょう。
3-4. 自動化テストを取り入れる
デグレ防止に必要なリグレッションテストは、ツールの導入によって自動化することが可能です。自動化テストを取り入れると、リグレッションテストに必要な工数やコストを削減できます。
自動化テストを取り入れて継続的にリグレッションテストを実施することで、思わぬデグレを発見しやすくなるという点も大きなメリットです。デグレを発見しやすくなれば、トラブルへの早急な対処も可能です。
ただし、自動化テストにも、ツールの選定やメンテナンス、テストの作成など、「自動化をするための工数」がかかります。また、ある程度開発が進んでからでないと使用できない点も押さえておくといいでしょう。
まとめ
デグレとは「デグレード」の略称であり、プログラムの変更や修正によって意図しない影響が表れ、システムやサービスの質が落ちてしまうことを言います。デグレの発生により、顧客の信頼を失ったり予期しない工数がかかったりする可能性があるため、できるだけデグレを起こさない体制を作りましょう。
デグレは事前に影響範囲の調査を十分に行い、開発者間のコミュニケーションを密に取ってバージョン管理を適切に行うことで防止できます。また、自動化したリグレッションテストを導入すると、工数を削減しながらデグレ対策を行えます。