リグレッションテストとは?省略によるリスクと自動化のメリット
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最終更新日:2023年09月20日 / 投稿日:2022年08月31日
システム開発のプロジェクトに携わると耳にするリグレッションテストは、システムの品質を保つ重大な役割を
担っています。リグレッションテストは何度も繰り返し行われることが多く、作業工数とコストがかかります。そのため、品質を保ったまま、テストの負担を軽減したいと思う方は多いのではないでしょうか。
この記事では、リグレッションテストの概要や、省略することで起こるリスク、効率よくテストを実施するポイントを紹介します。
目次
1.リグレッションテストとは?
リグレッションテストとは、バグなどの不具合が発生し、プログラムの一部を修正した後に、プログラム全体が正常に作動するか確認するテストです。別名「回路テスト」や「退路テスト」と呼ばれています。
リグレッションテストの目的は、顧客の仕様書通りのシステムを確実に納品することです。
プログラムとは、システムを動かす指示書のことです。プログラムの一部を変更すると、新たに別の箇所でバグが発生し、システムに指示が通らなくなることがあります。プログラムを変更する場合は、影響範囲を確認し、必ずリグレッションテストを実施する必要があります。
1-1.リグレッションテストとデグレーションとの違い
リグレッションテストと一緒に使用されることの多い言葉に「デグレーション」があり、それぞれの違いは、「検証方法」と「状態」にあります。
デグレーションの意味は、日本語で「悪化」や「退化」です。プログラムを変更したことにより、「システムの機能が低下、または正常に作動しない」など、変更前より品質や機能が悪化した「状態」のことをデグレーションと言います。
リグレッションテストは、デグレーションのような「状態」にならないよう、一部の修正が他の機能に影響していないか確認する「検証方法」です。リグレッションテストには「ノンデグレートテスト」という別名があります。
1-2.リグレッションテストを実施するタイミング
システム開発は、プログラムを機能ごとに区切って作成する方法が一般的です。作業が進むごとにさまざまなテストで検証を行います。
テストの大まかな順番は以下の通りであり、リグレッションテストを実施するタイミングは、各テストの終了後です。
(1)単体テスト
(2)結合テスト
(3)総合テスト(ST:システムテスト)
テストでの検証が不十分だと、さまざまな箇所でデグレーションが発生します。各段階で正確なテストを実施し、品質を保つことが大切です。
2.リグレッションテストは省略NG!省略した場合のリスク
テストの時間が確保できない、工数がかかり予算が足りないなどの理由で、テストの省略が検討されます。納品後に不具合が発生した場合は、顧客の信用を損なうため省略しないほうがよいでしょう。
ここでは、リグレッションテストを省略することで発生する、リスクを解説します。
2-1.顧客との信頼関係が崩壊する
リグレッションテストを行わず、デグレーションを残したまま納品すると、「画面が表示されない」「入力できない」など、さまざまな動作不良が発生する可能性があります。動作不良の発生により顧客の業務が停止し、利益損失につながった場合、顧客の信頼関係が崩壊します。
本来実施すべきテストを怠ったことが原因で不具合が発生した場合、顧客は手を抜いて仕事をされたと感じ、新規のバグが発生することより悪い印象を抱く恐れがあります。最悪の場合、仕事の打ち切りや次の仕事をもらえなくなる可能性もあるでしょう。
不具合により期限までの納品が厳しい場合は、早めに顧客へ事実を説明することが大切です。
2-2.余分なコスト・工数が発生する
デグレーションが発生したシステムは、再改修が必要です。一般的に、不具合を早期発見できるほど、修正の範囲や工数を抑えることができ、効率的に業務を進めることが可能です。
しかし、システム開発が完了した後に改修する場合、大きな範囲から問題点を探し出す必要があります。工数、コスト削減のためにテストを省略したはずが、さらなる作業工数とコストがかかるケースもあるでしょう。
3.リグレッションテストの範囲を決める3つのポイント
作業を円滑に進めるためには、リグレッションテストの実施範囲を決めることが重要です。
●正確な範囲を決める3つのポイント
- バグの影響を受ける箇所の把握
- 部分別のリスクレベルの把握
- テスト項目の優先度確認
ここでは、以上3つのポイントを解説します。
3-1.バグの影響を受ける箇所の把握
テストの正確な範囲を決めるために、バグが発生したときに影響を受ける箇所を把握します。影響を受ける範囲が狭いとデグレーションを見落とす可能性が高まり、反対に範囲が広すぎると作業工数が増加するため、慎重に行いましょう。
影響を受ける箇所と、関係するデータを扱う箇所を中心にリグレッションテストをすることで、不要な作業工数を削減し、業務を効率化できます。確認範囲の特定により適切な修正が可能になり、品質向上も期待できるでしょう。
3-2.部分別のリスクレベルの把握
バグの影響を受ける箇所を確認したら、次にデグレーションが発生した場合のリスクレベルを把握します。リスクレベルは、システム内にある変更前のプログラムの影響範囲が広いほど高く、影響範囲が一部など限定的な場合は低いと判断できます。
例えば、システムの土台となるプログラムやコードを変更すると、影響を受ける範囲が広く、デグレーションのリスクが高いと言えるでしょう。一方、システムの一部を構成するモジュールの変更は、全体への影響力が弱くリスクが低いと考えられます。
事前に不具合の箇所とリスクレベルを把握することで、テストに優先順位をつけ、効率的な作業が可能です。
3-3.テスト項目の優先度確認
修正箇所の影響範囲が広く、納期に間に合わない場合は、すべての段階でリグレッションテストを実施することは難しいかもしれません。納期の関係ですべてのテストを実施することが難しい場合は、テスト項目の優先度を確認しましょう。
テスト項目の優先度は、過去の実績や傾向を分析し、リスクレベルが高い箇所から項目を選定します。本来、範囲を絞らずテストを初めからやり直す「フルリグレッション」が最善ですが、莫大な工数がかかり現実的とは言えません。
過去の不具合発生の傾向から、優先度が高い項目を抜き出してテストケースを作成しましょう。
4.リグレッションテストは自動化に向いている?自動化のメリットと注意点
リグレッションテストは繰り返し行うことが多いため、自動化に向いています。
●テスト自動化のメリット
- 工数の削減
- 人為的なミスを防ぐ
- システムの品質向上
テスト自動化の最大のメリットは、作業工数を削減できることです。自動化ツールは、単体テストやバリエーションテスト(異なる種類のデータを入力し、データごとにチェック)など、繰り返す作業が得意です。毎回行うテストは自動化ツールを活用することで、手動で作業するより工数を削減できます。
また、自動化ツールは正確な作業を長時間実施することが可能です。人が手動で行える時間は限られており、疲労から入力ミスなどのリスクが高まります。自動化ツールを使用することでテストミスを防ぎ、デグレーションの発生リスクを抑えられます。
●テスト自動化のデメリット
- 変更点が多いテストは、自動化に向いていない
- 自動化ツールの導入時や、運用にもコストがかかる
自動化ツールは、登録したテストプログラムの内容しか作業ができません。変更が頻繁にあるテストは、プログラムを書き換える手間がかかり、工数削減の効果が弱まります。そのため、すべてのテストを自動化することは難しいです。
自動化ツールは適切に使用すると便利ですが、導入時だけでなく運用やメンテナンスにもコストが発生します。実際に削減できるコストと、自動化ツールを導入するコストを比較して検討する必要があります。
まとめ
システム開発にはバグや不具合の発生がつきものです。改修を行った後に、システム全体が正常に作動するかを確認するリグレッションテストは、重要度が高い作業と言えます。
納期に余裕がないなどの理由でリグレッションテストを怠ると、顧客との信頼関係が損なわれる事態につながりかねません。リグレッションテストを省略すると、さらなる工数とコストがかかる場合がほとんどです。リグレッションテストは省略せず、テストする範囲を絞ったり、開発工程からテスト自動化ツールの導入を計画したりして、効率よく進めましょう。