テスト自動化が生むコスト削減とビジネスバリュー
COLUMN
最終更新日:2025年11月06日 / 投稿日:2025年11月05日

RGSのテスト自動化チームで日々奮闘しているコンサルタントの君塚です。業務を通じて感じるあれこれをコラムとして時折皆さんと共有していきます。どうぞお付き合いください。
さて、テスト自動化ツールは、ここ数年で開発現場に広く普及してきました。ノーコード、ローコード対応の製品が増え、導入の敷居が下がったことも一因でしょう。
しかし、想定通りの動作をさせるために生成されたコード(スクリプト)を手動でメンテナンスしていることも事実ではないでしょうか。その結果、本来期待していたほどの工数削減効果が得られていない、こういったケースも少なくありません。
はたしてテスト自動化の導入効果はどの程度なのか。本稿で考えてみます。
1. テスト自動化はコストがかかる
システムテストの自動化はツールとともに発展してきました。高度なスクリプト言語を駆使して動作させる、指定した座標に指定したテキストを入力させるなど、ウィンドウ操作への自動入力を中心としたツールから、昨今ではツール専用スクリプトの作成を省略できるいわゆるノーコードツール、また、ウィンドウだけでなくAPIなど内部ロジックに対する自動化ツールも登場しています。
それらが自動化ツール導入のハードルを下げたことに加え、ITエンジニアの不足という人材市場の状況も、テスト自動化の必要性を高めています。
ただ、ツールの進化と同時にシステムのユーザーインターフェース(UI)も複雑化しており、それに対応するためにはそれなりのコストがかかることは否めません。例えば、
- 複雑な画面の動きに対応するテストスクリプトの作成・編集が必要
- テストスクリプト用の専用言語の習得が必要
- エビデンスを取得するには工夫が必要
- そもそも導入費用が高価
などがあり、導入に際して金額はもちろん、開発スケジュールへのインパクトも含めて考える必要があります。しかし、費用の発生を効果が上回れば導入をためらう必要はないはずです。
2. 費用対効果の算出方法
ここで、発生する費用の種類を見てみましょう。
- ツールの購入費用
- ツールの導入・構築に要する人件費
- ツール導入のためのH/Wコスト
- スクリプト言語の習得コスト
- ノーコード対応ツールであれば不要だが、往々にして作成したコードの修正が必要
- スクリプトの作成コスト(初期コスト)
- 画面の変更に合わせて行うスクリプト修正コスト
では、これらの費用がどの程度になるのか、単純化した条件で試算してみましょう。
- テスト期間:3か月
- テスト要員:2名
- 自動化ツールはATgoを利用、H/Wは既存のPCを利用
※あくまで仮定であり現実の数字ではないことはご容赦いただきたいと思います。
2-1. 発生するコスト(投資)
まず、「初期投資(金額)」と「導入・運用(工数)」を分けて考えます。
| 初期投資(金額) |
|
|---|---|
| 導入・運用コスト(工数) |
|
2-2. 削減できる効果(リターン)

次に、自動化によって削減できる工数を計算します。
| 手動テストの場合の工数 | 2名 x 3か月 = 6人月 |
|---|---|
| 自動化導入後のテスト実施工数 | 6人月 x (1 – 0.8) = 1.2人月 |
| 削減できた工数(リターン) | 6人月(手動) – 1.2人月(自動化後) = 4.8人月 |
ツール導入によりテスト工数が80%削減されたと仮定します。この数字はATgoのユーザーインタビューから採用した平均的な削減率です。
2-3. 投資対効果(ROI)の試算
このモデルでは、「初期投資720,000円」と「導入工数3人月」を投下して、「4.8人月」の工数を削減できたことになります。
ここで、仮にエンジニアの1人月コストを80万円として、金額に換算してみましょう。
| 総投資コスト(金額換算) | 720,000円(ライセンス費)+(3人月 × 80万円)= 312万円 |
|---|---|
| 総削減効果(金額換算) | 4.8人月 × 80万円 = 384万円 |
この仮説モデルでは、削減効果(384万円)が総投資(312万円)を上回り、導入初年度からでもコストメリットが生まれる可能性が示唆されます。
あくまで単純計算なのでH/Wの調達など現実的には他の費用発生の可能性もありますが、自動化の費用対効果について、具体的なイメージを掴んでいただけたのではないでしょうか。
しかし、ツール導入は計算式で表される効果だけではありません。
3. テスト自動化が生むビジネスバリュー
ビジネスバリューを、売上やビジネス機会の増加といった直接的な利益(定量効果)に結びつけることは容易ではありません。これは、ビジネスに良い影響を与える定性的な価値・効果も含むためであり、施策・対策は定量面と合わせて評価することが重要です。
自動化ツールの導入もビジネスバリューの評価を忘れてはいけません。
テスト工数削減効果
先ほどの例では、テスト実施工数が6人月から1.2人月へと削減されると想定しました。
削減によりエンジニアは他の作業に携わることができます。プロジェクトの規模が大きいほど削減効果は大きく、リソースの適正配分に良い効果を与えます。
テスト期間短縮による開発工数圧縮がもたらすリリース速度の向上
テスト工数の削減効果により製品あるいは機能のリリースが早まることで、
- 開発サイクルが早まりユーザーの要望への対応が早くなる
- デプロイ回数の向上で製品品質を上げることができる
- 市場性のあるプロダクトの場合、製品・機能のリリースが早まり市場競争力が生まれる
品質向上
- 自動化テストは手動テストで発生する人為的ミスが起きにくいです。また細部に渡ってテストできるため品質向上に寄与します。
- 品質向上は、本番環境でのインシデントの削減にもつながるため、顧客満足度の向上に貢献します。
さいごに
本コラムではテストの自動化による省力化の効果や、ビジネスにどのように貢献するかを考えてみました。あくまで単純化モデルではありますが、ぜひ前出の計算式で自社の効果を測定してみてください。
SI企業にて業務系システムの構築に従事した後、ITコンサルティング会社でコンサルタントとして活躍。ミッションクリティカル領域のプロダクトを担う企業の技術系責任者を経て、2023年から合同会社ステップ&ストップ代表。RGS株式会社ではコンサルタントとして活動している。













